地域の子育て支援と連携した障がい児支援を推進

地域の子育て支援と連携した障がい児支援を推進

地域の子育て支援と連携した障がい児支援を推進

 急速な高齢化に伴い介護保険分野では、LIFE活用による科学的介護の推進、地域包括ケアシステムの充実、将来を支える世代を対象としたヤングケアラー支援などの取り組みが進む。障害福祉分野でも、昨年8月に、障害者権利条約批准(2014年)後、初の審査で精神疾患のある人の地域移行が目標として示されるなど、多様な利用者を支える仕組み作りが続く。厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長の辺見聡氏に聞いた。

きょうだいを含めたヤングケアラー支援を

 障害福祉分野でのヤングケアラー支援の課題の一つとして、障がい児が育つ家庭でのきょうだい支援が挙げられる。

 2014年の障がい児支援の在り方に関する検討会の報告書では、障がい児のきょうだい支援の必要性について記載されている。

 以前から、ケアを要する家族と同居する子どもが「介護力」と見られてしまい、ヤングケアラーによる介護を前提とした介護・福祉サービスの利用調整が行われているとの指摘があった。そのような場合に、一律に介護者がいる状態と評価せず、必要に応じて公的な支援を行う仕組みが必要と問題意識として持ち続けていた。21年のケアラー支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチームによる検討会では、多職種連携によるケアラーの早期発見と支援推進について議論を深め、同年5月の報告書で、家族介護において子どもを「介護力」とすることなく居宅サービス等の利用について配意するなど、ケアラー支援も念頭に置いたアセスメントの留意点について自治体等へ周知することが明記された。

児童発達支援センターを中核として、子育て支援との連携にも期待

 昨年6月に公布された「児童福祉法等の一部を改正する法律」では、24年4月から市町村において、ケアラーを含め要支援児童の保護者等に対し、子育てに関する情報提供や、家事・養育に係る援助など必要な支援を行う「子育て世帯訪問支援事業」が始まる。

 障害児施策の分野では、同じ児童福祉法の改正において、児童発達支援センターが地域での障がい児支援の中核 的役割を担うことを明確化し、種別にかかわらず障がい児を支援できるよう児童発達支援の類型の一元化を行う。

 4月以降子ども家庭庁において、子育て支援、障害児支援等が一体的に行われる。そうした中で児童発達支援センターに求められる役割・機能について検討会で議論いただいている。

 今後は障がい児支援に関わる全ての事業所には子ども施策全体の中での連続性を意識し支援にあたることが期待される。

ケアマネも専門性の枠組みを超えた支援を

 ケアラーを介護力とみなさないことに留意しつつ、教育・医療機関との連携や情報共有をしながら支援が必要という点は、障害分野の相談支援にも、介護保険のケアマネにも共通。

 サービス提供にあたり、医療・介護等、各分野にそれぞれ専門家がおり、専門性に対しての期待は高く、頼る方も一時的に支援の負担が減る。

 一方で、各分野の専門家が対応可能な支援は量的にも時間的にも制約があり、障がい者や高齢者といった支援を必要とする方とその家族に対し、長期的継続的に支援を行うには、専門性の枠を超えた連携や、地域資源の活用、利用者自身が自分でできるような工夫をしながらの支援も必要になる。

 利用者や家族といった支援を受ける側、専門家を含む支援者側が共に意識してもらえたらと思う。精神障害者の退院支援と地域の受け皿を14年に日本は障害者権利条約を批准し、昨年8月にその後の取組について国連による初めての審査が行われた。

 報道で注目されたのは、精神科領域の強制入院病床の全廃と施設入所者等の地域移行・脱施設化に関する要請だ。

 我が国の精神保健福祉法には、精神障害のため自傷他害のおそれがある場合や、医療・保護の必要性があるが患者本人が適切な判断を下せない場合に、精神保健指定医による診察などに基づき入院治療を行う措置入院や医療保護入院という制度がある。

 今回の審査では、本人の意思によらない入院制度自体を廃止することが目標として求められた。

 しかしながら、患者自身が意思表明できないケースで入院治療が必要な場合にどう対応すべきかなどの課題があり、代替策を見いだすことはできていない。障がい当事者や家族など関係者の声を聞きながら議論を進める必要がある。

 一方で、長期入院患者の地域移行に関しては、今回の改正で医療保護入院に入院期間の定めが設けられ、地域生活を支援する関係者と退院時期の情報を共有しながら退院促進に向けた支援を行うこととなる。入院期間は更新が可能だが、一定期間ごとに、入院継続の必要性を確認することや退院促進に向けた審議を行うことは意義がある。

 また、地域生活を支援する側も、退院後の住居やグループホームなどの生活の場、通院支援など地域での受け皿の充実にも努め、長期入院を病院だけではなく地域の問題としても考えていかなければならない。精神保健福祉士、社会福祉士等地域で支援に携わる方々にも今回の法改正の意義を意識していただきたい。

 精神科領域では治療に関しても大きく進歩している。そのような部分も見ながら取り組みを続けたい。

高齢障害者に対する支援の議論は利用者にも配慮

 介護保険と障害福祉サービスの適用関係に関しては、現状65歳を超えた時点で、介護・障害の両方で共通のサービスであれば介護保険を優先して使い、介護保険にないものは障害福祉サービスを使う仕組みとなっている。

 介護保険は社会保険であり保険料負担した被保険者は給付を受けることができる。一方、障害福祉サービスは全額公費で負担している。障害分野では脳性麻痺や頸椎損傷などによる月数百時間におよぶ重度訪問介護などにも必要であれば対応している実情もある。

 社会保障の原則としては社会保険が優先適用される。介護・障害分野のサービス対象者の年齢や範囲、限度額などに係る議論は、介護保険制度の発足時にさかのぼるが、平成28年の障害者総合支援法改正では、低所得の高齢障害者の負担を一定範囲で軽減する仕組みも設けられた。また、個別の障害者の状況を踏まえた丁寧な支給決定も必要であり、様々な機会に地方自治体に対して周知を行っている。

DX化に向けてデータベース活用を

 障がい者支援は、自分自身が希望する生活の実現が目標だ。

 個々の人が抱える障がいの内容や程度も多様で、支援の個別性も高い。要介護度区分などによる分析が進む介護保険分野と比べ、障がい分野は個別性が高く大規模データから適切な支援を導き出すという手法は難しいのではないか。

 現状では、自治体の基盤整備等にデータを活用することを念頭に置いて、地域の障がい者の状況などのデータベース化を進めている。データやICTの活用で業務効率化や支援に関する情報共有の推進につながることを期待している。

 また、これらのデータを大学や民間の研究所などが利用できるような仕組みづくりも進めながらDXを推進したい。(談)

 (22788)

(シルバー産業新聞2023年3月10日号)

元のページを表示 ≫

関連する記事

続きを見る(外部サイト)

ケアニュースカテゴリの最新記事