必要な情報提供で自己決定をサポート/栗原道子(短期連載1)

必要な情報提供で自己決定をサポート/栗原道子(短期連載1)

必要な情報提供で自己決定をサポート/栗原道子(短期連載1)

 東京都町田市の堀内祐子さんは、発達障害の子ども4人を育てたお母さんです。取材でお会いしたところ、スマートで明るい女性でした。堀内さんは、自閉症スペクトラム支援士、特別支援士(スクールファシリテーター 、ペアレントサポーター)、傾聴支援士の資格を持っています。2005年から通信制大学の星槎大学で発達障害について学び、現在は発達障害の子どもの親や、本人のカウンセラーもしています。

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 「子どもは男3人、娘1人です。うち3人は小学校の時に、もう一人は中学の時に発達障害の診断を受けていますが、それぞれ今は3人が家を出て働いています。家にいるのは次男だけですが今は専門職に就いています」と堀内さん。子どもはみなさん20~30代ですが、結婚して親になっている人、起業してがんばっている人、それぞれの人生を力いっぱい生きているそうです。

 4人とも発達障害を持っているので、幼少期のころは夜寝なかったり、事故にあったり、どの子がどう大変だったかは覚えていられないほど、色々なことがあったそうです。一緒に買いものに行けば誰かが迷子になるし、常に体を動かしていなければ落ち着かない多動の子がいたり、不登校だったり、学校をやめた子もいます。

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 今回は特に、次男の拓人さんについて聞きました。拓人さんは小学校の時から普通の学校のほかに「通級指導教室」にも通いました。通級指導教室という制度は20年ほど前からある仕組みだそうです。通常学級に在籍し、各教科の授業や給食など学校生活の大部分を通常学級で過ごし、担任も通常学級の先生です。週または月に何時間か通級指導教室に通うことになっていて、発達障害の子どもや親に大変助かる制度です。通級の先生は子どもの特性をわかってくれて、通常の学校でうまくいかないときにも非常に力になってくれたそうです。

堀内祐子さん

堀内祐子さん

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 堀内さんは、次男が中学にあがる時に校長先生に面会を申し込み、「発達障害に理解のある先生が担任になってくださるとありがたい」とお願いに行きました。幸い理解ある先生に恵まれたのですが、その先生にも「拓人は優しくて、一緒にいると私は癒されます」と息子さんの長所を話したそうです。

 拓人さんが学校でパニックになると、先生は誰もいないカウンセリングルームに行き、本人がクールダウンしてから話を聴くなど対応もよかったそうです。発達障害の子は周りと違う部分があるために、そのことでいじめにあうこともあります。しかし先生が拓人さんを肯定的に見てくれて、クラスメイトにも拓人さんの良いところが伝わっていきました。

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 通級指導教室のことを知り合いの若いお母さんに聞くと、こんな話をしてくれました。「うちの子も通級にいきました。中学校の保健室に行くのは嫌だけれど、図書室なら行けるというので図書室登校を学校に交渉して、中学3年間は図書室登校したのです。3年間本をたくさん読み、司書の先生がいろいろ相談にのってくれて将来へのヒントももらい、充実した3年間を過ごせたと今でも親子で感謝しています。勉強は家の近くの塾に通い、高校は自分で選んでいきました。今は大学で医学を学んでいます」。

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 拓人さんは、中学で不登校になりました。保健室登校から体育だけ参加して、そのうち国語の授業にも出られるようになって、休みがちでも学校に行けるようになりました。ここにもクラスの人達の温かな応援と担任の先生の指導があったのです。

 高校は調理の専門学校に入りましたが、続きませんでした。そのとき堀内さんは拓人さんに「学校を続けるのならそれでいい。でも学校に行かないのなら学費が無駄になる」とはっきり言って、息子自身に考えさせました。

 本人にとっては、生きるか死ぬかというほど追い詰められた問題でしたが、そこで調理の学校と提携していた単位制の高校に行く道が開けたのです。堀内さんは「親として大切なことは情報提供です。子どもは親に比べて情報が少ない。そのために道は閉ざされたと思って落ち込みます。その時に適切な情報を提供できるよう自分も勉強しました」と振り返ります。進んだその高校で、拓人さんの成績はぐんぐん伸びました。

(シルバー産業新聞2021年10月10日号)

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