利用料2割負担問題で様々な疑問 宮下今日子
次期介護保険改正で、利用料2割負担の対象者拡大が論議されているが、業界団体等では独自の調査や現場の意見を集めて、拡大しないよう要望している。
また、サービスを見直した場合の懸念として、「運動が減るので筋力低下等で調子(体調等)が悪くなる」が最多で30.4%、「外出する機会が少なくなる」は21.9%だった。デイサービスは利用者の生活に欠かせないものであり、同協会は「自立支援に向けたデイサービスの本来の役割を社会に提供する上で課題となる」と指摘している。
ケアマネジャー「ケアプラン作成に影響」87.5%
2割負担の対象者拡大で調査
在宅サービス利用者の1097人に聞いたところ、34.4%がサービスを減らしたり、中止すると回答。同会の林泰則さんは、「顕在化しない困難が広がることが予想される。厚労省の調査ではそれが出てこない」と強く警鐘を鳴らしている。
次期改正の2割負担拡大調査への疑問
厚労省は、第107回介護保険部会(23年7月10日)で、2割負担に関わる資料を提出している(「給付と負担について」(参考資料))。調査には、総務省が行う国民の家計調査(22年)が使われ、その中で年収220万円の人は、消費指数が211万円と算出した。
黒字のため2割でも可能だろうというものだが、この調査では、220万円を±50万円の幅で設定しているため、210万円以下の人は赤字になる。また、支出の内訳をみると、住居費が年間16万円とあるが、すでに持ち家の人もいるし、ローン支払いの有無もあるし、賃貸料が毎月生じる人もいる。介護保険を利用している人もいれば、いない人もいる。
家計調査のサンプル数は9000世帯で、170万円から270万円に該当する一人世帯の数は103世帯。家計調査には介護保険を使っている人も入っているようだが、まだ使っていない人もいると思われる。高齢になると病気になった時こそお金が心配であり、調査は果して十分なのだろうか。また、103世帯であれば、個別の事情を追いかける追加調査も可能だろう。「あまりに十把一絡げ過ぎて、この調査で拡大の論拠にはできない」と調査を分析した林さんは指摘している。
2割負担導入後のケアプラン調査
この調査では、2割負担になった2650人を対象に、そのケアプランをチェックした。サービスが減った、利用を中止した人は3.8%で、そのうち介護に関わる負担が重くてサービス利用を控えた人が35%だった。大きな影響はないと厚労省は言いたいのだろうが、この調査は2割負担導入直後の、たった5カ月間の調査であり、その5カ月以降、2割負担の人は継続して生活できたかは分からない。ケアプランはすぐに変えられるものではなく、5カ月以内は継続し、そのために貯金を取り崩したかもしれない。しかも、物価高の現時点で、15年時点の調査と比較するのは無理があるだろう。
2割負担導入時の厚労省調査
35万円もの赤字世帯が2割負担に耐えられないだろうが、この国会での審議のたった7日後、14年6月8日に2割負担が導入されてしまった。林さんは、「再度、審議会に戻されると思っていたが、議論もなく成立した」と今でも疑問視する。
参考人質疑に立った「認知症の人と家族の会」の勝田登志子氏は、「手元に60万円残る」との資料の誤りが明らかになったことについて、社会保障審議会介護保険部会の委員として「驚きと怒りを覚える」」と発言した。「審議会で真摯に議論していた資料が間違っていたので撤回するというなら、審議会に差し戻すべき」と付け加えた。
利用料が2割になると国民への影響が懸念される。利用控えがあれば業界への打撃ともなる。厚労省には真摯な調査をお願いしたい。
(文=宮下今日子)