神奈川県 地域包括ケア構築へ、市町村を伴走
東京都に次ぐ920万人の人口を擁する神奈川県。2021年から人口減少局面へ移ったが、高齢者人口は今後も増加の一途をたどる。県の第8期介護事業支援計画にも、「全国屈指のスピードで高齢化が進展している」と明記。住み慣れた地域で要介護高齢者を支え続けるため、市町村の地域包括ケアシステム構築の伴走支援や人材確保などに力を注ぐ。
特定施設が多い神奈川県
給付状況をみると、神奈川県では居住系サービスの利用が多いことがわかる。居住系サービスの被保険者一人あたり給付月額(18年時点、性・年齢調整後)は全国平均約2500円に対して神奈川県は約3500円。居住系サービスの利用者が多い。認定者1人当たりの居住系サービス(特定施設入居者生活介護〈地域密着型含む〉、認知症対応型共同生活介護)の定員数は0.128人と全国トップだ。特に特定施設が占める割合が高い。「供給が需要を喚起している面もあるかもしれない」と同課企画グループリーダーの依田真一氏は指摘する。
リゾート地である三浦市には元々、大型の有料老人ホームがあり、箱根町、真鶴町、湯河原町も人口当たりの定員数が多い。それに加えて、特に人口が多い県北部などは市場としても大きく、新規開設が続いている。「現時点で課題が生じているという認識はないが、横須賀、三浦市や県西部は、県全体でみて高齢化のピークを迎えるのが早い。ニーズの変化や40年以降も見据えながら、市町村と調整の上で過剰な供給にならないように注視し、適切な提供に努める」(垣中課長)
市町村の個別事情にあわせた伴走支援
例えば、小田原市では「総合事業の短期集中予防サービス終了後の行き場がない」という課題に対して、地元企業と連携し、軽作業などを有償ボランティアとして担ってもらう仕組みを整えた。高齢者は報酬も得つつ、地域社会とのつながりを維持できる。また平塚市では、昨年度から基幹型地域包括支援センターの設置検討について、県の伴走支援を受けている。市町村の手上げ制で、年2カ所まで申請依頼を受け付ける。21年度から開始し、これまでに6カ所の支援を行っている。
現在は神奈川県介護支援専門員協会副理事長で神奈川県地域包括ケアシステム統括アドバイザーとしても各地で活動する松川竜也氏とともに県職員が伴走支援にあたる。市町村への訪問ペースはおおよそ2カ月に1回。「市町村が抱える課題、人員体制、地域資源はさまざま。県も伴走し、それぞれの実情にあった地域包括ケアシステムの深化・推進をバックアップしていく」と垣中課長。また国の地域包括ケア「見える化」システムのデータを活用し、市町村の地域分析支援にも取り組んでいる。
総合的な施策で、需給ギャップの解消図る
「介護未経験者参入促進事業」は、介護分野での就労未経験者や外国籍の県民を対象に、介護職員初任者研修や入門的研修の受講機会を提供。さらに介護サービス事業所等への職業紹介、就労までの一気通貫支援で介護人材の参入を促す。「神奈川県版ファーストステップ研修」は、中堅介護職員を対象にチームリーダーを育成するファーストステップ研修を、地域の介護サービス事業所が共同で実施し、事業所自らのキャリアアップの仕組みづくりを支援する。また介護職員初任者研修や実務者研修を職員が受講する際、事業者が負担する受講費用や代替職員の配置費用の補助事業などにも取り組む。
また、11月11日の「介護の日」にあわせた関連イベントとして「介護フェアinかながわ」を毎年開催している。今年は電車の中吊り広告などでもPR。介護との接点や関心がない県民に対しても、介護の仕事の魅力を発信する。「本県でも介護人材不足は喫緊の課題。今後拡大が見込まれる需給ギャップを解消するためには総合的な施策展開が必要だ」と垣中課長は強調する。
(シルバー産業新聞2023年11月10日号)