地域包括ケア 障がい福祉の挑戦②「ことばに隠された本人のニーズを読む」

NO IMAGE

地域包括ケア 障がい福祉の挑戦②「ことばに隠された本人のニーズを読む」

どうする「意思決定支援」

辺見 本人の意思決定が難しい場合に、障がい者支援でも高齢者の認知症ケアでも、意思決定支援が重要である。本人に必要な情報を提供し、自分で考えて決められるように支援していく。仮にその結果に疑問符がついても本人が決めたこととして尊重するのが原則になる。

平石 「デイサービスに行きたくない」「家にいたい」という高齢者に出会うことがある。しかし、家から出ることで新たな局面が広がり、満足していただくことも少なくない。個人の意思を見極め、結果として本人に満足していただけるのであれば、専門職として提案すること自体は間違っていないと思う。

石山 表明された言葉だけにとらわれず、なぜデイサービスに行きたくないのか、もっと専門職側が掘り下げて、その理由が分かって、その上で本人の判断を助ける情報提供をしていく。そうしたプロセスで選ばれた結果であれば、OKだと思う。

成年後見制度の代理意思支援

辺見 介護保険制度創設に関わったが、措置から契約になることが重要なポイントだった。契約をするための判断能力が要る。その時に成年後見制度が活用されるという期待があった。今回、国連審査では成年後見制度の代理意思決定も問題視された。

石山 成年後見人制度ができた時と今とでは高齢者像が異なる。当初は脳血管疾患の人が主だったのが、いまは認知症の人が主になり、独居も多い状況。しかし、東京都などのACP(アドバンス・ケア・プランニング)研修では、意思決定支援の難しさを指摘する声が上がった。

辺見 どのようなことですか。

石山 家族からは「自分たちは本音を話していないし、専門職主導でやってほしくない」という声が出る。障がい者ケアの意思決定支援が問われるが、実は高齢者ケアの方が当事者を中心に置いていない現状があるのではないかと、はっとした。障がい者本人は自分たちを抜きにして考えないでほしいと言う。家族の中のことは家族が決めていくという日本の風潮がある。本人がどうしたいかというよりも家族がよければそれでいいともいわれる。特に高齢者ケアの方が本人中心になっていない現実があるように感じる。

平石 本人が発した言葉が即、自己決定ではない、と。

来年度から「適切なケアマネジメント手法」による法定研修

石山 そう思う。来年度から適切なケアマネジメント手法による法定研修が実施される。先行した研修では、アセスメントが重視され、研修にあたり選んだ利用者の24時間の行動を調べる。ケアマネジャーからは「日中もずっと家でぼーっとしている」、「自分たちの提案が拒否される」という言い分だったが、適切なケアマネジメント手法で再アセスメントすると、本人は朝8時に伝い歩きで玄関に行って息子さんの見送りに、夕方4時には帰宅してくる人を迎えようとリビングに移動してエアコンをつけに行っていた。家の中で自分の役割をもっていることが分かった。それを認めた上で、デイに行かなければ、筋力が低下してしまうと提案。本人の役割を認めたことでデイ利用の道筋も見えてきた。

機械化/リモート/ZOOM

辺見 DX(デジタルトランスフォーメーション)化とまでは言えないが、障がい者就労の分野では、機械化・効率化で工賃を上げてきた経緯がある。パン焼き窯、クリーニング機器など大型の機械を入れて、働く時間や働き方の効率化を図りながら生産性を高めてきた。コロナ禍の特例で研修や会議のリモートが可能になったが、今もリモートは継続して行われている。障がい分野は高齢分野よりも事業規模が小さく、しかも個別性が高いだけに、リモートの活用により効率を高めることは有効な取り組みだと思う。自閉症の強度行動障害の支援などで支援者が連携を図る上でも活用できる可能性がある。

平石 老施協の会長になって、テレビ会議の活用を提案した。私が住む広島県尾道市から片道4時間かけて東京まで来て1時間半の会議というのはあまりに非効率だ。その準備をしているとコロナ禍となり、活用が一気に広がった。その結果、1年で旅費が1億円浮いた。年間8億円の運営費で1億円削減できたので、会費を1割カットすることができた。

ケア記録の自動化

平石 デジタル化の推進においては、ケア記録が最も有効だった。慣れれば時間の短縮にもなるし、データを活用すれば状態の変化も分かる。

石山 人材不足で心配なのは、訪問介護がないと在宅介護が進まないこと。直行直帰の登録ヘルパーが多く、ケア記録が難しい。そうしたところ、手持ちのスマホに話すとケア記録が自動入力されるソフトが出てきた。バイタルも全部仕分けて記録される。サービス提供責任者はヘルパーが話した瞬間に伝わるので、その先のケアマネジャーともつながる。昨年12月20日の介護保険部会のとりまとめでも在宅を含めたDX展開を進めていくとされた。

平石 音声入力の精度が上がった。その場で入力することにより記録入力のための時間が短縮され、超過勤務が減る。

石山 18年から「デジタルケアマネジメント」という研究を品川区の事業でパナソニックとやっている。実際、在宅で高齢者がどのような生活をしているかは謎に包まれている。利用者と家族から語られた言葉や家の雰囲気などに基づいてケアプランを作っているのが現状だ。24時間のセンシングによって在宅での様子が随分と分かった。こうしたモニタリングによって、より良いケアにつながる。

標準化がすべてではない

石山 高齢者は課題分析標準項目23項目を定められているが、障がい者はアセスメント項目が定められていない。厚労科研の障がい者支援の取組の結果がでてきたが、アセスメント結果を集計すると約600項目あり、利用者の障がい種別や年齢に配慮することと専門職の視点のばらつきをどうするかは考えないといけないと思う。

辺見 障がい分野は、個別性が高く、標準化には課題がある。データ分析も大事だが、その手前のところで、センサーでモニタリングすることによって個々の対応に活かしていく。標準化とは別の角度で活用できるのではないか。

平石 介護の専門性を考える上で、自立の数値化や可視化が必要だが、自立の概念が人によってばらばらということがある。

石山 高齢者と障がい者では、自立のイメージが異なる。良くなる可能性のある自立もあれば、がん末期の人や難病の進行性疾患の人の自立もある。そう考えると、その人にとっての自立とは何かこそ大切だとわかる。それを捉えてケアプランに落とし込むのがケアマネジャーの役割になる。今回のケアマネジャーの法定研修の見直しで、難病のケアマネジメントが項目に入ったのも注目している。

(次回、地域包括ケア 障がい福祉の挑戦③「その人にとっての自立・社会資源」に続く)

元のページを表示 ≫

関連する記事

続きを見る(外部サイト)

ケアニュースカテゴリの最新記事