愛媛の介護保険 ICT・介護ロボット事業 昨年度予算3倍に

愛媛の介護保険 ICT・介護ロボット事業 昨年度予算3倍に

愛媛の介護保険 ICT・介護ロボット事業 昨年度予算3倍に

 愛媛県は3人に1人が高齢者で、高齢化率は全国で10番目に高い。山間部・離島と地理的条件も多様な同県が全国に先駆けて取組むのが、テクノロジー活用による人手不足等の地域課題解決。介護分野でもICT・AIの活用可能性を探る。

 愛媛県の総人口は2022年4月時点で133.4万人。うち高齢者は44.4万人、高齢化率は33.3%に達する。40年推計で高齢者は約43.2万人とやや減少するが、生産年齢人口の減少幅が大きく高齢化率は40%となる見込みだ。

 地域別でみると、製造業が集積する東予地域、松山市を中心に観光業等が盛んな中予地域と比べ、一次産業が主力の南予地域の高齢化が顕著。市町村別に見ると山間部に位置する久万高原町(高齢化率49.51%)、離島地域の上島町(47.77%)など、20市町のうち10市町が40%を超えている。「第9期(24~26年度)中には高齢者数が減少に転じる見込み」と保健福祉部長寿介護課の森原眞五係長。施設整備などの必要性の判断が難しくなると次期計画を展望する。

 要介護(支援)認定者数は19年時点で9.4万人。40年推計で10.8万人と緩やかに増加する。21年から40年での各サービス量の伸び率をみると、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(133.8%)、看護小規模多機能型居宅介護(142.5%)、介護医療院(150.5%)などが大きい。

 介護職員数は19年が3万1567人。将来の必要数は25年で3万2533人、40年で3万8373人と推計されるが、供給は25年に約1000人、40年に約1万人の不足が見込まれる。

県を挙げてデジタル化推進

 こうした状況下で、人材確保・定着に向け注力しているのが、県知事の公約に掲げる「介護分野のDX化」を通じた生産性向上。①ICT機器導入支援②介護ロボット導入支援③自立支援のためのAIケアプラン導入促進支援④ノーリフティングケア普及啓発⑤介護助手の育成――などの事業を手がける。

 ①・②は地域医療介護総合確保基金を活用、介護現場への導入を加速化させるため、22年度は予算規模を約3倍に拡充した。「それでも予算枠を越える応募があり、需要の高まりを感じた」(森原氏)。介護ロボットは前年度比2倍以上の505台、ICT機器は約4倍にあたる132事業所に対し導入支援を行った。

 AIケアプランの導入支援は19年度に開始。シーディーアイ(東京都中央区)協力のもと、20年度には西条市、翌21年度には西条市および伊予市で実証モデル事業にも着手。対象市内の利用者の匿名加工データをAIに学習させ、そこから提案された内容をもとに、参加したケアマネジャーは自身が担当する利用者へのケアマネジメントに活用する。
実証後のアンケートでは、参加者の多くが「客観的な視点をもつことができた」「支援内容やサービス量を適切に組むことができた」と評価。実際に「身体状態が改善した」との回答もあった。今年度の実証モデル事業については現在、市町の選定を進めているところ。

 「最初はどうしても『入力が手間』など、抵抗感もあるが、各方面でAIの活用が進むなか、介護分野で取り組まない理由はない。AIケアプランについては、今は発展途上の段階。まずは操作体験会などで現場のケアマネジャーに使っていただき、AI導入へ理解をいただくとともに、実際に活用した上での意見を開発にも反映させ、より良いものにしていく必要がある」と森原氏は話す。

 ④のノーリフティングケア普及啓発事業は、福祉用具や介護ロボットを適切に活用し、身体機能・構造に則した介護技術を習得することで、抱え上げない介護の実践をめざすもの。19~21年度は18カ所のモデル事業所を育成し、介護職員の8割超が身体的負担の軽減に至った。22年度からはこれを県内全域へ横展開。モデル事業所は新規に取組む事業所へ実地研修の場を提供するなど、指導的役割も期待されている。

生産性向上の総合窓口

 6月には「介護生産性向上総合相談センター」を介護労働安定センター内に設置。生産性向上に関する相談等を受け、情報提供や関係機関の紹介、専門家派遣によるコンサルティングなどへつなぐ(図)。相談は無料。「ロボット・ICT補助金関連は、これまでも県社協や介護労働安定センターを中心に支援を担ってきた。知見を持つスタッフも多い」と同氏は説明し、職員のメンタルサポート等の相談にも対応するため、専門家には中小企業診断士や社会保険労務士の協力も得たいとしている。

 そして、相談の中で最も効果を出しやすいと説明するのがICT導入支援。「業務内容を洗い出した上で、例えば記録時間の短縮など、課題とICT活用がマッチすれば、導入につなげることができる」(同氏)。

 新規人材の確保では、新たに介護分野への就労を希望する人に対する「愛媛県介護雇用プログラム」を実施。派遣職員として介護サービス事業所で約6カ月間働きながら介護職員初任者研修を修了し、プログラム終了後はそのまま派遣先の事業所での継続雇用に繋げることを目指す。参加者は毎年度40人程度、うち30人ほどが新規雇用に繋がっている。

 また、3カ月間のOJT研修による介護助手育成事業においても一定数の雇用継続を実現している。

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家族・一般へ介護を啓発

 16年に県独自で開発したアプリ「笑顔ケアねっと」は利用者・介護従事者へ役立つ情報を提供。▽介護保険制度の基本・サービス利用の流れ▽介護サービス事業所・施設検索▽健康・介護予防に役立つ情報▽利用者・家族・従事者の交流掲示板――のほか、同県オリジナルの「認知症チェック」も行える。

 また、04年より運営する「在宅介護研修センター」は、広く一般県民を対象とした、全国でも珍しい在宅介護に関する研修施設。①介護予防②認知症③ターミナルケア――を軸に各種講座を設ける。あらゆる介助動作を体験するため、居室やトイレ、浴室、階段などの環境を完備するほか、VRによる認知症の疑似体験もできる。

 「介護は自宅から、しかも突然始まる。いざ介護が必要になったときの備えを考えるきっかけにしてもらいたい」と同氏。今後はICTの活用講座も取り入れていきたいと話す。

ねんりんピックカウントダウンボードをバックに(右が森原係長)

ねんりんピックカウントダウンボードをバックに(右が森原係長)

(シルバー産業新聞2023年8月10日号)

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