《自律支援》本人の積極的な活動を促す自立支援/豊田平介さん
最近よく耳にする「じりつ」支援には2通りの意味があるのをご存じですか? まず、一般的によく聞くのは一人で様々なことができるようになることを意味する「自立」で、もう一つが自分をコントロールする「自律」です。
本人の積極的な活動を促す自律支援
世界保健機関(WHO)が提唱しているICF(国際生活機能分類)では、健康状態を維持するために重要となる要因として「活動」「参加」「心身機能・構造」を挙げています。
ここで注目いただきたいのが「心身機能」です。健康状態を維持するために運動をするのは「身」の自立支援として多くの人が取り組んでいます。それと同時に重要な「心」の支援というのが、本人の意欲的な活動に繋げる「自律支援」です。
「億劫」の気持ちに要注意
私が所属する医療法人社団永生会は東京都八王子市が取り組む、高齢者が自信を取り戻し、自立した暮らしを獲得することを支援するサービス「ハッピーチャレンジプログラム(通所型短期集中予防サービス)」に参加しています。この事業では週に1回の面談を通じて、生活での不安の解消や自立した暮らし方へのアドバイスを行います。
様々な高齢者をヒアリングする中で「億劫になってきた」というフレーズをよく耳にしました。例えば、「今まで通っていた活動教室に行くのが億劫」や「掃除が億劫」など理由は様々です。これは活動意欲低下の兆しであり、非常に注意が必要な感情です。
「活動が億劫になる→自分でできることがなくなる→要介護状態となり介護サービスが必要となる」と介護の入口にもなってしまいます。
体力が落ちてきているというのは自覚しやすく、また周囲の人も気が付きやすいです。しかし、気持ちの面で行動する機会に躓いているというのは本人もその周囲の人もなかなか気が付きにくいです。
「億劫だな」というつぶやきを耳にしたら、生活での困りごとや、身体状況に変化はないか確認してみてください。
役割を認めて前向きな発言を心がけて
周りの人からすると高齢者を思っての発言ですが、本人にとっては転倒による恐怖体験のほか「家族に迷惑をかけられない」という気持ちになりさらなる活動量の低下につながる恐れがあります。
私たちも普段生活をする中で、絶対に転ばないという確証はありません。高齢者も同じで、加齢による体力低下でケガのリスクが若いころよりも増加しますが、活動制限による体力低下が進むことでケガのリスクが高くなります。
活動量が低下することで運動量が減り、さらに筋肉量が低下し、結果的に自立を阻害してしまいます。ある程度筋力があれば、転びそうなときに踏ん張って防ぐなどケガのリスクを最小限にとどめることができるので、日ごろから活動する習慣が大切です。
本人の意欲的な活動を促すためにも、暮らしのコミュニティの中で役割を認め、取り上げないことが大切です。例えば玄関掃除を任せることで「これは私の仕事」と生活の張り合いになります。
さらに趣味などの活動も続けたくなるような声かけを家族がするのも非常に効果的です。家族からの一言はとても大きいです。創作が好きな方だったら「素敵だね!また作ってみたらどう?」などポジティブな言葉をかけて、継続意欲に繋げてみてください。
セルフマネジメントに繋げる
以前、バスに乗るのが不安な方がいらっしゃいました。気持ちを整理していくと、実はバスの段差が怖いため利用していないことがわかりました。
ここで重要なのが「〇〇したら?」など周囲が解決法を示すのではなく、本人が気づくように促すことです。今回のケースでは理学療法士が「バスの中に手すりはありますか?」と聞いたことで、本人が「手すりにつかまれば乗れるかもしれない!」と解決法に気づき、バスを使った外出ができるようになりました。
同じように、「自分で不安の原因を探り、解決方法を考え、挑戦する」という流れを身に着けることで、様々なことにチャレンジする自信にも繋がります。
我々専門職は、その人ができることを増やし、生活を取り戻すサポートをします。心配や不安を抱えている方や、通いの場のことが知りたい場合は地域包括支援センターなどに相談してみてください。
理学療法士。八王子市の短期集中予防サービスを中心とした介護予防・日常生活支援総合事業に関わる。2019年より一般社団法人八王子市リハビリテーション専門職協会を立ち上げ、代表となり、研修会や事業所のサポートに取り組む.
(介護の日しんぶん2022年11月11日)