自立支援を阻む「現実」と「超える手段」

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自立支援を阻む「現実」と「超える手段」

 2021年介護報酬改定の注目加算として、介護保険施設(特養・地域密着型特養・老健・介護医療院)に全利用者に算定できる大型加算「自立支援促進加算」(300単位/月)が創設された。全入所者を対象に、医師の判断に基づいて、できる限り離床を促し、食事・排泄・入浴を中心に「それまでの普段の生活」「本人の意向・希望を尊重」した個別ケアの提供を評価するもの。科学的介護情報システム「LIFE」にその内容を提出する必要があるが、ADL・栄養・褥瘡などの科学的指標を用い、データ提出することを要件とする加算が増加する中、介護特有の「数値化・定量化しにくい取り組み(個別対応)」「入所者の生活の質」に注目し、評価するのが自立支援促進加算といえる。介護保険施設での自立支援について全3回で特集する。初回は特養(介護老人福祉施設)編。

「自立への関心の薄さ」と身体状況の現実

 入所者ごとに月300単位が加算される「自立支援促進加算」は、21年改定の注目の大型加算の一つ。100人規模の施設で毎月30万円の加算となる。

 この加算は、介護療養を除く介護保険施設で算定できるが、特養は▽常勤医師の要件がない▽入所者は原則、要介護3以上の要件がある▽本人や家族が施設に自立支援を求めていない(終の棲家としてのニーズが強い)――などの理由でハードルが高いとされている。

 実際、現在の特養の平均介護度は4に近く、「寝たきり」に近い入所者の割合が高いといえる。

 介護施設の入所者の状態像について、厚生労働省「高齢者介護実態調査」の60カ所・3519人(2007年1月〜3月、特養20カ所・1098人、介護療養11カ所・642人、老健29カ所・1779人)を対象にした調査結果をもとに、特養の入所者となりうる要介護3以上の状態像を見てみると▽「歩行」は要介護3の4割、要介護4の7割、要介護5の9割が「できない」▽「移乗」は要介護3の4割、要介護4の8割、要介護5の9割超で「何らかの介助を必要(全介助・一部介助)」▽「移動」は要介護3の4割、要介護4の7割、要介護5の9割で「何らかの介助(全介助・一部介助)が必要」――となるなど、自立を目指すも特養利用者の状態像からは対応が必要だと分かる。

 また、同加算は本人や家族の意向を大切にするため、特養入所のニーズに多い「終の棲家」に対して、最近のトレンドである「自立支援や在宅復帰に向けた取り組み」に賛同を得ることが難しい、という現実もある。

「普段の生活」を施設でも

 一方で、同加算では「食事」「排泄」「入浴」を軸に、普段の生活の状況について「ベッド上での食事よりは室内のいすに腰かけて。できれば食堂に移動して」「できればトイレに移動して」「機械浴よりは職員の介助で。できれば個浴で」といった具合に、その人がこれまでしてきた「普段の生活」に近い形態を目指した多職種連携の取り組みを評価するため、厳格なアウトカム評価とは一線を画するといえる。

重度者でも介助負担を減らすテクノロジー

 特養の入所者像に近い要介護4以上の人の自立を目指し、個別計画を立てて同加算を目指す場合、介護職への負担が増大することも考えられる。

 その解決のため、介護リフトやスタンディングマシーンなどの介護機器、見守りセンサーや移乗支援機器(パワースーツなど)、入浴支援機器、排泄支援機器(動作・予測・処理)などの介護ロボット・ICT機器の活用も盛んになってきている。

 たとえば排泄については、本人の尿意が低下している人に対して、おむつと併用して膀胱内の尿量を予測する機器を使って、過不足なく最適なタイミングでトイレ誘導する機器(リリアム大塚「リリアムスポット2」など)がある。

 トイレ個室内での排泄についても「支え手」と「下衣の上げ下げ・おしりふき等」の2人介助が基本となる所を、天井に設置した機器が立ち上がり・ターン・着座までを支援することで1人介助にできる機器(がまかつ「サットイレ」など)がある。

 入浴に関しても、浴槽をフロア内でスライドさせて介助者の介助しやすい浴室とし、椅子に長座位で腰かけているだけで浴槽を跨いで入浴させてくれる機器(積水ホームテクノ「wellsバスシリーズ」)など、対応する機器の発売も相次いでいる。

 これらは介護ロボットの範疇に入り、国の助成金の対象となるなど、介護施設への導入を促進する支援体制も完成しつつある。次号では、具体的な取組事例を紹介する。

(シルバー産業新聞2021年10月10日号)

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