地域包括ケア 障がい福祉の挑戦③「その人にとっての自立・社会資源」
辺見 やはり一人ひとりの生活や歴史をしっかり見ていくことが基本になる。昨秋の総合支援法改正で市町村に障がい者の基幹相談支援センターと地域生活支援拠点の設置が義務づけられた。地域に協議会も作られる。本人中心にこれら3拠点で見守る。
ともに取り組むことで見えてくる
石山 相談支援専門員と介護支援専門員とでもそうだ。介護保険が始まった当初は、医療と介護の連携においても医療職と介護職との相互理解は難しかったことを思い出す。
辺見 在宅診療もかなり進歩している。医師のカバンをみると在宅で使う検査機器がたくさん入っている。
石山 心電図の検査も。およその医療機器は在宅で使える。
専門性で付加価値を高める
ただし、比較的取り組みやすいのは掃除。当施設でも行政からの委託を受け、公園清掃等をやっている。
広島市では児童発達支援センターを立ち上げたが、専門性が高いスタッフがいるので高い評価を受けている。共生型サービスを進めること自体は問題ないが、どの分野でも専門性が求められる。
辺見 地域のネットワークで当事者中心の支援というのは、高齢者にも障がい者にも共通。共生型サービスが日本中くまなく広がることはイメージしにくい。障がい者が高齢になって介護保険のサービスを使う場合に限らず、例えば就労支援の局面が変わることにより事業所を移る場合はある。そうした時に地域のネットワークの力が問われる。「高齢者支援ができたから障がい者支援もできるだろう」というのではうまく行かない。障がい者の場合もそれぞれに専門性が高い。受け入れやすい人だけを選ぶのはあってはいけない。地域極性という観点からは、障がい者就労で高齢者の居場所づくりや地域の見守りをするといったアプローチを広めていくのがいいのではないか。
企業の品質管理や効率化を学ぼう
そうした中で特養の人員配置基準を現行の3対1から4対1に緩和するという議論が出てきた。今でも介護職員は入居者の方とゆっくり話す時間が取りにくい状況にあるのに、これ以上人員を減らせば介護の仕事に魅力が感じられなくなってしまう。一部の大手介護事業所ではデジタル技術の活用により効率化を進めているが、日本全体を見た時にはそれはレアケースでしかない。
全国老施協では過去2年間「全国老施協版介護ICT導入モデル事業」という独自の事業を実施し、業務の効率化に取り組んでいるほか、社会福祉法人の枠を超え、先駆的な企業との交流も深めている。「井の中の蛙大海を知らず」ということにならないよう、組織として懸命に動き、学んでいるところだが、まずは人員配置基準の見直しではなく、介護の魅力を高めることに取り組むべきだ。
石山 私はケアマネジャーとファイナンシャルプランナーの2つの資格を取った。高齢期は、資産を使いながら生活していく経済的持久力との戦いだと思ったからだ。さらに民間でチャレンジしたく保険会社の子会社で所長を務めた。自分の時間単価でどれだけの働きをしたら効果的か、新規事業所の損益分岐点を最短でクリアする方法も考え、毎日のスケジュールを組んだ。品質は絶対に保たないといけない。会社の組織管理やリスク管理がしっかりした中で学んだ。
平石 私は職員2人の無認可作業所の勤務からスタートしただけに、ある程度の事業規模が必要だと考える。そうでなければ人事管理やデジタル化の推進は難しい。もちろん、仕事の面白さは無認可作業所や定員30人の入所施設で勤務した時で、スタッフ全員で力を合わせてやりがいがあったのを思い出す。
石山 経営の観点やキャリアアップできる人事体制、公平さや見える化など組織に揃って、全部がうまく行ってこそ、職員、社員にとって働きやすい夢があり誇りも持てる職場になる。単に報酬をアップしたらいいというものではないように思う。
辺見 経営は一体でなくても人材育成など一部を一緒にやるというのもある。
平石 連携推進法人とまではいかなくても、緩やかなネットワークの構築から始めていくこともできる。
こども家庭庁に移管した障がい児ケア
辺見 4月にこども家庭庁が発足。障がい児支援を移管した。厚労省では障害に着目して障がい者、障がい児を担ってきたが、今後はこども家庭庁ができて、こどもという横串でみることになる。
障がい児の通所支援のあり方検討会では子ども支援の中で障がい児の支援がされることを意識した議論が行われた。ヤングケラーの取組もその一つになる。専門性をもった支援が今後も必要だ。
編集部 障がい福祉が充実し地域包括ケアシステムの構築が進展することを願って本日の座談会を終わります。ありがとうございました。