段差解消用具が叶える自立支援
国際医療福祉大学小田原保健医療学部作業療法学科教授・学科長 北島栄二さん
日本家屋には、屋内外に玄関の上がり枢や敷居などの段差が多く見られます。ご年配の方や障がいを持つ方にとって、屋内外にある段差は、移動を妨げて転倒する原因になることがあります。そのような危険を避けるために、段差解消用の福祉用具の使用をお勧めします。
段差解消用の福祉用具には、スロープ、段差解消機などがあります。これらを用いる場合、まずはご本人が用いている移動支援用具は何か、介助する人の能力はどれくらいか、使用する個所の広さや段差の高さなどを考え、段差解消用の福祉用具を選ぶことが大切です。なぜなら、段差解消用の福祉用具の選択を誤ると、事故や介護負担の増加につながるからです。
今回は車いすで移動する方を対象に、段差解消用の福祉用具(スロープと段差解消機)について、それぞれの対象と構造、基本的な使い方、特長や注意点などを解説します。
段差解消用の福祉用具
①スロープ
【対象と構造】
スロープの構造は、設置場所は屋内または屋外か、どの程度の高さの段差か、介助者の能力はどのくらいか、動線は直線または曲線かなどを考慮して選びます。以下は代表的な構造です。
▽全長が数メートルの長さに及ぶ構造
(持ち運びを容易にする折りたたみ式)
▽車いすの車輪をのせる部分が左右に分離した構造(図1)
▽進路が曲がっている場所に設置できるカーブ型の構造(図2)
▽カーボンファイバーなどの軽量かつ丈夫な素材は、折りたたみや持ち運びが容易です。
【基本的な使い方】
▽介助者は車いすと共にスロープへ乗り込みます。
▽スロープの勾配は段差の高さとスロープの長さによって決まります。まずは、車いすを無理なく介助できる程度の勾配を考慮しましょう。
▽介助者が車いすを押して段差を上る場合、車いすの車輪をのせる部分が左右に分離した構造のスロープを利用します。
【特長・注意点など】
▽重い電動車いすを用いる際は、頑丈な構造のものが必要です。
▽スロープの両端には、車いすが通行できる程度の広さが必要です。
▽急な勾配を下る場合、搭乗者の転落リスクを避ける後ろ向きで操作しましょう。
▽介護保険制度の福祉用具貸与サービスの対象です。
②段差解消機
【対象と構造】
▽車いすの方が段差を乗り越えるのを手助けするための機器であり、床に固定して設置する「固定型」と、床面に置く「据置き型(図3)」があります。
▽「据置き型」は、最もテーブルを下げた位置でも床面との間に数センチの段差ができるため、乗り込み用のスロープが付属します。
▽手すりを握って立位で使用する、省スペースの段差解消機もあります。
【基本的な使い方】
▽玄関の上がり框や掃き出し窓など、地面と家屋との段差を解消して車いすの出入りを支援します。
▽電動または手動の操作により、人や車いすが乗るテーブル部分が垂直方向に昇降します。
▽概ね100㎝ までの段差を解消できます。
【特長・注意点など】
▽手すりの位置を変更すると、直角方向へ乗り降りを行える機種もあります。
▽「据置き型」の乗り込み用のスロープは、急な勾配であるため、乗り込みの際に後方への転倒に注意が必要です。
▽「据置き型」は介護保険制度の福祉用具貸与サービスの対象です。
活用のポイント
段差解消のための福祉用具を導入するには、ご本人と介助者の状態、お住いの住環境の情報などを十分に考慮する必要があります。
また、介護保険での利用を希望する場合、まずは介護支援専門員(ケ
アマネジャー)や福祉用具専門相談員へご相談ください。申請手続
きについてのアドバイスが受けられます。
また、ご本人の身体の状態を踏まえたアドバイスが欲しい場合、リハビリテーションを担当する理学・作業療法士へ相談することも良いでしょう。