世田谷記念病院 とろみ調整を自動化 飲料の安定提供、業務改善にも

世田谷記念病院 とろみ調整を自動化 飲料の安定提供、業務改善にも

世田谷記念病院 とろみ調整を自動化 飲料の安定提供、業務改善にも

 平成医療福祉グループが運営する世田谷記念病院では、摂食嚥下機能が低下した患者の飲料や嚥下訓練に「とろみサーバー」(凰商事)を活用し、安定したとろみ飲料を提供している。

 同グループはかねてから摂食嚥下支援・低栄養改善に注力し、とろみ調整剤を独自開発するほどに。法人栄養部部長代理の堤亮介氏は「課題に上がるのが、とろみ調整のバラツキをいかに無くすか。スプーンの形状、とろみ調整剤の分量は周知できるが、混ぜ方などはどうしても個人差が出る」と述べ、食事の際などに集中するとろみ付け作業の負担も導入の背景にあったと述べる。

 とろみサーバーは①飲料(3種類+水)②温・冷③とろみの程度――を選ぶだけで、とろみ飲料を約15秒で自動抽出。とろみの粘度は日本摂食嚥下リハビリテーション学会分類に基づく「うすめ」「中間のとろみ」「こいめ」の3段階で、とろみ無しも設定できる。

 同病院では主に食事、また嚥下評価・嚥下訓練時に使用。言語聴覚士の守屋淳一氏は「サーバーを使うことで、とろみ付けが確実に安定した。少しでもダマがあると適切な嚥下評価が難しくなる」と評価する。

 管理栄養士の粟田麻友氏も「飲料が異なっても適切にとろみが付くので安心して提供できる。選べるのが患者にも嬉しい」と話す。サーバーは食堂に設置し、現在は煎茶、麦茶、レモンティーの3種類。とろみ付けの必要がない患者は自分で飲みに行くことも多いそうだ。

 同じ飲料、とろみ粘度で最大1.5L分を抽出できる「まとめどり機能」も重宝。介護課長の福崎彩子氏は「業務効率が格段にアップした。今までは病棟ごとに給湯ポットを用意していたが、とろみ調整が必要な患者は計量カップで飲料を入れた後、一人ずつとろみ付けをしなければならなかった」と説明する。粟田氏は「効率化できたぶん、調理や盛り付けに時間をかけられるようになった」と述べる。

評価・計画・ケア・観察を多職種で

 回復期リハビリテーション病棟107床、地域包括ケア病棟39床を有する同院。入院初日に医師、看護師、リハビリ3職種、管理栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカー等による「合同評価」で入院期間の目途も含めた目標を設定、1週間後のカンファレンスで正式な目標・計画を立てる。

 嚥下評価は、「改訂水飲みテスト」を実施。経口摂食が難しい人はおおよそ1週間以内に嚥下内視鏡検査、または嚥下造影検査を行い、嚥下障害の原因を早期に究明する。守屋氏によると、言語聴覚士の介入が必要な患者のうち、回復期で4〜5割、地域包括ケア病棟で9割の患者が摂食嚥下機能に何らかの問題を抱えている。

 さらに「患者の半数は入院時点で低栄養」と粟田氏。「リハビリに必要な栄養量をいち早く確保するため、急性期病院や施設、在宅での食事摂取状況も踏まえ、栄養補給の手段を検討しなければならない」と強調する。

 管理栄養士は患者25人に対し1人と手厚い配置。食事観察(ミールラウンド)はほぼ毎日実施する。「ちょっとした食べにくさやむせなど、食事の変化に気づきやすい」と粟田氏。必要に応じて言語聴覚士へ嚥下評価を依頼するという。守屋氏も「例えば食材に含まれる水分の違いで、嚥下評価どおりに食べられないこともある」と食事観察の重要性を説く。

 食事介助を担当する介護・看護職員からは朝食の様子や好きな食材・献立の情報をもらい栄養管理に活かすなど「食べること」を共通項に各職種が密接に連携。福崎氏は「どう介助すれば食べやすいかを主に見ているが、管理栄養士、言語聴覚士が目の届く場所にいるので、安心して介助が行える」と話す。

 さらにグループ本部では、嚥下評価と食形態のズレが生じないよう、現場から得た情報をもとに毎月の会議で食形態をより厳密に調整、現場へフィードバックしている。

 平均在院日数は回復期リハ病棟72日、地域包括ケア病棟37日(2月現在)。退院先が自宅の場合は家族の介護負担を考慮し、家で続けられる食事の提供方法を入院中に計画。継続支援として同院からの訪問リハビリ、訪問栄養も活用する。施設入所の場合は食形態のすり合わせを事前に行い、安全性を担保する。

(左から)堤氏、粟田氏、 福崎氏、守屋氏

(左から)堤氏、粟田氏、 福崎氏、守屋氏

全拠点直営給食献立は年間日替わり

 同グループの病院・施設は全て直営給食。「市場へ出かけて食材の買い付けから関わり、新鮮な食材を安く仕入れるよう努めている」と堤氏は話す。粟田氏は「盛り付け方や飾り付けの配置など、細かい指示を出しやすいのも直営ならでは」と述べ、食欲を喚起する見た目の大切さを強調する。

 献立は全病院・施設共通で365日異なる。47都道府県の郷土料理を取り入れた献立は説明カード入りで、食事の楽しみをより一層引き出す。職員と患者とのコミュニケーションのきっかけにもなるそうだ。

 調理や食事の質向上を目的とし、各病院・施設がオリジナルの献立を披露する「調理・献立コンクール」を毎年開催。優勝作品は実際の献立に採用されるため、調理工程や食材調達も審査のポイントとなる。昨年の第11回大会で世田谷記念病院は、高齢者に人気の高いいなり寿司をメインとした「さわやかいなり定食」を考案、関東エリア1位に輝いた。

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(シルバー産業新聞2023年3月10日号)

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