自治体内の個別課題に向かい合う 「地域事」を「我が事」に

自治体内の個別課題に向かい合う 「地域事」を「我が事」に

自治体内の個別課題に向かい合う 「地域事」を「我が事」に

 「通いの場」の整備について、住民主体で推進することに苦慮する自治体も多い。そうした中、熊本県御船町は地域住民を主体とする取組を軌道に乗せ、介護認定率を抑えることに成功した。成果を上げていた同町の介護予防だが、担当者の勘に頼り、評価も不十分だったため、外部機関との調査事業で「閉じこもり高齢者に地域格差が大きい」との地域課題を明らかにされた。そうした気づきの中で、科学的に地域実情を細やかに分析し、戦略的に課題に取り組む「通いの場」育成の方針に転換。住民をやる気にさせ、主役にさせたことが成功の秘訣だった。
「御船町の介護予防」と地域格差

 熊本県御船町(人口1万7039人、高齢化率34.9%=2023年)は介護予防に熱心な自治体。03年より全国に先駆けて介護予防サポーターを育成し、公民館などを会場に介護予防の取り組みを実践。06年より全国で地域支援事業(介護予防事業)が開始されると、小学校区(全10カ所)で住民主体の集いの場「元気クラブ」を展開してきた。

 07年には介護予防サポーター連絡協議会を組織化したほか、12年には理学療法士や運動指導士などの専門職による短期集中型(C型)の「元気が出る学校」を開始。4カ月間の教室終了後に「地域サロン」や「元気クラブ」などの通いの場に移行する循環型の仕組みづくりを完成させた。13年時点で全高齢者の32%が地域サロンに参加するなど定着し、介護認定率を低く抑えることにも成功した。

 順風満帆に見える同町の介護予防だが、13年に日本老年学的評価研究と連携し実施した「健康と暮らしの調査」では「他の自治体に比べ、ボランティアや社会参加の割合は高いが、山間地域での高齢者の閉じこもりが多く、平坦地域との格差が大きい」という特性が明らかにされた。

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介護予防も課題分析と個別対応

 前任の同町福祉課課長で、現在は町社会福祉協議会事務局長の西橋静香氏は「ショックだった。ボランティアを育成し、住民主体の介護予防を育成してきたにもかかわらず閉じこもり高齢者の割合が高いことも明らかになった。同時に10年頃から要介護認定率が上昇傾向になるなど、介護予防事業の進め方の見直しが必要と感じ始めてもいた。科学的に分析し、課題を見据えて、それぞれに対応することの始まりでもあった」と振り返る。

 西橋氏は「福祉課の取り組みにはまちづくりの視点が欠かせないことから、町役場の多部署連携による『地域包括ケア推進会議』を開催して取り組んだ」と振り返る。
 
 閉じこもり高齢者が多いと指摘されたのは過疎化の進む「水越」地区。求められたのは、画一的でなく、本当にその地域住民が望むコミュニティーの活動とすること。

 地域の推進役となる人材を見出し、地域に何が必要かという意向の聞き取りのために現地訪問した時には「インターネット経由で物産を全国に売って収入を得たい」「道路など公共工事をしてほしい」など、介護予防(通いの場づくり)とは乖離したものだった。

 「一生懸命に、皆さんがこの地域で暮らしていくために、通いの場を皆さんに作ってもらいたいことを丁寧に伝えた」(西橋氏)という。

 その仕掛けとして、小学校廃校跡地に「水越ホタルの学校」を開校。住民ボランティアを養成し、学校に倣い校長・教頭・事務長も配属。校歌斉唱のほか1限目運動、2限目学習会・食事会・ホームルームなどを通じ、運動や脳トレーニング、栄養改善など趣向を凝らした仕組みを作りだした。月1回は安否確認を兼ねた配食サービスも実施している。

 その後、16年調査で「熊本震災の復興が進まない地域の住民には抑うつ傾向の人が多い」とされたことを受けて、18年より田代西部地区に介入。地域課題を自分事として活動する女性の集まり「きらり美笑会」が中心となり、独自にアンケートを実施。住民の内なる想い・悩みを聞き出した。そうした活動の中で、住民主体の通いの場「人生百歳クラブ」の活動が始まった。

過疎や地域格差に向かい合う効果

こうした活動は住民の関心を集め「閉じこもり者(外出頻度が週1回未満)の割合は、13年と19年の比較で「水越」12.3%から3.9%、「田代西部」19.0%から3.5%と大幅に改善させた」と同市地域包括支援センターの永本麗衣保健師。同センター事務局長の田上里枝氏は「大都市部では前提が異なりますが、私たちの取り組みや曲折を参考にしていただける自治体が多くいらっしゃるとうれしいです」と話す。
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(シルバー産業新聞2023年2月10日号)

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