夜勤スタッフの負担軽減を日中ケア向上に還元
介護現場でのテクノロジー活用や介護助手の活用等で期待できる生産性向上の検証のため、厚生労働省は先駆的取り組みをする介護施設を選定し、効果検証をする「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する効果測定事業(2022年度実証事業)」を進めている。24年介護報酬改定での、看護介護職員配置基準緩和の判断材料とされるため注目も高い。首都圏・近畿圏で有料老人ホームを展開するチャーム・ケア・コーポレーション(大阪市、下村隆彦社長)も、実証協力企業として選定された3社のうちの1社。近畿エリア3ホーム(100人規模2ホーム、50~60人規模1ホーム)で効果測定が実施されている。
排泄ケア最適化の効果
取組の一つに紙おむつの見直しがある。吸収量が多く、通気性の高さや後戻りの不快感の少ない高性能おむつ「一晩中安心さらさらパッドSkinConditionシリーズ」(ユニ・チャーム製)を採用することでおむつ交換の頻度を削減。特に夜間は0回または1回とするなど、利用者に合わせたおむつ交換タイミングやトイレ誘導に取組む。
「交換頻度を減らしても、皮膚トラブル・褥瘡リスクの変化はなく、睡眠の質が向上している」と同社介護DX推進課長の大野世光氏(写真右)。
また、眠りの質を科学的に把握し、より良い介護に活かすためにバイタルデータの計測ができる見守りシステム「ライフリズムナビ」(エコナビスタ製)を採用。眠りの状態を計測・分析することで「浅い眠りから覚醒に近づいているタイミングでトイレ誘導の声掛けをする」など、利用者ごとの傾向分析に基づいた個別ケアを目指した科学的介護の実践にも取り組む。
大野氏は「今後はバイタルデータを携えて泌尿器科医との連携を進めたい」と話す。
ほかにも、床ずれを防ぐため、これまではリスクの高い人には人による定時の体位変換をしてきたが、夜間安眠のために自動で体位変換や体圧分散をしてくれる高性能エアマットレスを採用した。22年7月時点までの主なテクノロジー機器は▽エコナビスタ「ライフリズムナビ」(バイタル見守り)▽パラマウントベッド「ここちあ利楽」(全自動エアマット)▽モルテン「オスカー」(体位変換機能付きエアマット)――など多彩。インカムはもっとも導入が進んでおり、同社20ホームで活用されている。
夜勤負担軽減を「日勤の充実」に
ライフリズムナビを活用することで安否確認のための訪室が不要になり、夜勤スタッフからは「以前より負担感は少なくなった」との回答が得られた。
今回の実証事業を通じて目指す最終目標は「100人規模ホームで、通常より夜勤を1人減らした3人体制で、質を担保しながら業務継続を可能とする。その上でスタッフ1人分を昼勤に再配置することで、日中のケアの向上に人材を活かす」というもの。
ホーム長の三島亮士氏(写真左)は「高品質なサービスのためQOL向上に取り組んできた。今後は日勤配置を増やすことで、日中活動を増やし利用者が希望されるケアの提供をしていきたい。夜勤スタッフにとっても、配置の最適化により負担軽減ができる」と説明する。
今のスタッフの力を最大化するために
実際、同社平均は「2.2~2.3対1」(展開するホームにより差がある)で、全国の有料老人ホーム(特定施設)平均「2.7対1」よりはるかに手厚く、特養並のスタッフ配置を実現してきた。特に首都圏中心に展開する同社の最上級ブランド「チャームプレミアグラン」では、介護スタッフが24時間・365日常駐。スタッフ配置は「1.5対1」を実現しているという。
「最高レベルの手厚い介護を目指しており、医療ニーズや認知症のある人であっても、受け入れ可能な限り入居いただいている。そのために必要なスタッフ配置が特養並みの体制だった。利用者やご家族も『多くのスタッフがいて、本人の意向に沿ったケアを提供してくれる』ことを期待されて入居してもらっているため、これからも必要なスタッフ配置と考えている」と大野氏。
人材不足の中で貴重な専門職に負担をかけることなく、提供できるサービスを最大化するためのテクノロジー活用だという。
テクノロジーに好意的な利用者像
利用者の反応は「スタッフにお願いしなくても、照明やテレビなどのスイッチが操作できるので気兼ねがなくなった」と好評という。
「ちょっとしたことは、スタッフのお手伝いを希望する人ばかりでないことも分かった。利用者満足度・自立心の尊重の意味でも、要望があればテクノロジーに置き換えることも求められるようになってきたのかもしれない」と大野氏は語った。
(シルバー産業新聞2023年1月10日号)