総合事業 住民主体B型 実施市町村2割に満たず

総合事業 住民主体B型 実施市町村2割に満たず

総合事業 住民主体B型 実施市町村2割に満たず

 厚生労働省は5月30日に社会保障審議会介護保険部会(座長=菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)を開き、「地域包括ケアの更なる深化・推進」について議論した。介護予防・日常生活支援総合事業は住民主体サービス(B型)を実施する市町村の割合が訪問型・通所型ともに2割に満たず低調。同省は今年度創設した「地域づくり加速化事業」等を通じて、総合事業の課題解決に向けた個別支援に取組むとしている。

 65歳以上高齢者の要介護認定率は18.6%。これに対し、75歳以上では32.1%、85歳以上では60.6%と、年齢が上がるにつれ大きく上昇する。85歳以上人口は2020年の620万人から40年には1024万人と約1.7倍に急増すると推計。かつ、同時期には生産年齢人口が急減するため、介護ニーズの増大が見込まれる。

 こうした状況を踏まえ、同省は次期制度改正に向け①地域包括ケアシステムの更なる深化・推進②介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進③給付と負担――を論点の柱に。この日の部会では、前回に引き続き①の地域包括ケアシステムに関して、総合事業や認知症施策等の実態を示しつつ広く意見を求めた。

「従前相当のみ」3割

 18年4月に、介護予防訪問介護と介護予防通所介護は財源は介護保険のまま、市町村の地域支援事業である総合事業に完全移行。20年度の実施状況をサービス類型別にみると、従前相当サービスは訪問型・通所型ともに9割以上、基準を緩和したサービス(A型)は5割の市町村で提供されている一方、住民主体による支援(B型)は10%台と課題を残す(グラフ)。

 専門職による3~6カ月の短期集中サービス(C型)は訪問型22%、通所型38%。B~D型のいずれかを実施している市町村は訪問型・通所型いずれも7割に満たず、3割以上(訪問型635、通所型529市町村)が前相当へのスライドのみにとどまっている。

 実施事業所(団体)数は訪問型4.2万カ所で、うち「従前相当以外」は32.7%。3年前の25.9%から緩やかに増加は続けている。通所型は4.9万カ所で従前相当以外が24.9%。委員からは伸び悩む住民主体B型に対し「住民が介護を理解し、アクションを起こすことが事業の目的の一つ。参加することの大切さを啓発すべき」(津下一代・女子栄養大学特任教授)や「モチベーションを高めるためにも、参加住民への支払費を具体的に示すべき。『地域を自分たちでつくるチャンス』と認識してもらえる施策が必要だ」(石田路子・高齢社会をよくする女性の会理事)などの意見があがった。

 同省は今年度新たに「地域づくり加速化事業」を創設(予算7500万円)。市町村の地域づくりに向けた支援パッケージを活用し①有識者等による市町村向け研修(全国・ブロック別)②総合事業の実施に課題を抱える市町村への伴走的支援――を行う。

 「支援パッケージ」は市町村の状況・段階ごとに支援内容を類型化したものを今後作成する予定。また「伴走的支援」は従前相当サービスが多い市町村などを対象に、有識者等が課題解決に向けたきめ細かな支援を複数回(3回程度)行う。

 PDCAの視点で地域づくりを進める自治体を増やすことが事業全体のねらい。「オンライン研修等も活用し、総合事業の多様なサービスの充実へ個別支援をはかりたい」と同省担当者は説明した。

 なお、総合事業の事業費が上限を超えてもよい例外ケースとして、今年度は、従前相当以外のサービスを新たに導入し一時的に費用の伸びが高くなるが、産官学の取組等を通じて伸びの低減が見込まれる場合や、人口1万人未満の市町村で担い手不足により従前相当以外の実施が難しい場合などを新たに追加。同時に、例外措置のいずれのケースも、上限超過解消に向けた「費用低減計画」の作成が求められる。

認知症ケアパス 9割近い市町村で作成

 19年に策定した認知症推進施策大綱は①普及啓発・本人発信支援②予防③医療・ケア・介護サービス・介護者への支援④認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援⑤研究開発・産業促進・国際展開――の5つの柱に沿って、25年までの具体的な施策と目標(KPI)を定めたもの。同省は主たる施策の進捗状況を報告した。

 認知症の疑い・気づきがあった場合の相談先や、その後受けられる医療・介護サービスなどの流れを標準的に示す「認知症ケアパス」は20年度時点で1542市町村が作成済(実施率88.6%)。ケアパスの中で早期対応としての役割を担う認知症初期集中支援チームは全市町村・2509チームが設置されている。認知症の専門医等を中心とした複数専門職が認知症(疑い)の人を訪問し、概ね6カ月程度の包括的・集中的なサポートを行うしくみ。これまでの実績では対象者の80%が医療、67%が介護サービスにつながっている。

 また、初期集中支援チームに必須となる認知症サポート医の受講者数は20年度末時点で1.1万人。25年度末1.6万の目標に対し「計画通り進んでいる」と同省はコメントした。

 認知症カフェは1518市町村(87.2%)で計7737カ所を運営。「20年度末で全市町村に普及」の目標からは遅れている。運営主体の内訳は介護事業所・施設28%、地域包括23%。開催1回あたりの平均参加者数は17.6人となっている。

 ケアパスやカフェなどの地域支援・連携体制づくりの中心として市町村に配置する認知症地域支援推進員は21年4月時点で7561人。77%が地域包括に所属している。

 桝田和平委員(全国老人福祉施設協議会)は「各地で認知症サポーターなど個々の養成は進んでいるが、チームとして働くかがポイント。コーディネーター役が重要となる」と強調。一方で「地域包括は他の業務も重なり、あまりに負担が大きい。果たしてその中で機能できるのか」と指摘した。他の委員からも、地域包括の人員配置の見直しを検討すべきとの要望があがった。

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重層的支援事業 年度内の実施予定8%

 17日に議論の中間整理が行われた内閣府「全世代型社会保障構築会議」を受け、その主要テーマの一つである地域共生社会に関する取組事例を紹介した。

 8050問題やヤングケアラーなど増大する社会課題の中で、昨年度創設した「重層的支援体制整備事業」は、高齢・障害・子育て・生活困窮に関する複雑・複合化したニーズへ、包括的な支援体制を構築する市町村事業。属性や世代を問わない相談の受け止めや、多機関の協働、地域資源の活用方法の拡充などが期待される。

 実施にあたっては各分野の交付金・補助金を一体化した事業交付金を一括で交付。任意事業であり、今年度は134市町村が実施を予定している。

 千葉県松戸市では、17年に基幹型地域包括支援センターを設置。同年には「福祉相談機関連絡会」を立上げ、各分野の相談機関どうしで情報共有や事例検討の場を年4回設けている。翌年に困りごとのワンストップ窓口「福祉まるごと相談窓口」を基幹型地域包括センターに設置。各分野の専門職を配置し、適切な機関への紹介へつなげる。19年に同窓口を3圏域に拡大。21年度より重層的支援体制整備事業として運営している。

(シルバー産業新聞2022年6月10日号)

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