自分自身の人生を生きられるよう支援を

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自分自身の人生を生きられるよう支援を

 21年8月、滋賀県大津市でヤングケアラーの18歳の少年が当時6歳の小学校1年生の妹を暴行死させるという衝撃的な事件があった。近年、社会や家族のあり方が大きく変化し、家事や家族の世話などを日常的に担う、子ども・若者ケアラーの問題が浮き彫りになってきている。家庭での負担が大きい子どもや若者に対し、適切な支援の手を差し伸べることは、これからの社会の担い手に自分らしい人生設計を立ててもらうためにも重要な課題だ。立命館大学産業社会学部教授の斎藤真緒氏に、子ども・若者ケアラーの現状と介護保険制度での支援の考え方などについて聞いた。

一人のヤングケアラーとの出会い

 斎藤氏が教鞭をふるう大学に、周囲になじまず、会話も少ない学生がいた。その学生は、高校1年の時に祖母が認知症となり、入院中の父とフルタイムで働く母の代わりに介護を担うことに。それまで通学していた私立高校を辞め、通信制の高校に通いながら、祖母が亡くなるまで5年間介護を続けた。

 いつしか祖母に対し「死んでほしい」と心で願うようになり、時には首を絞める夢をみた。斎藤氏はこのような実情を受け、子ども・若者ケアラーを調査した。するとケアの対象は、高齢の祖父母だけではなく、病気の親や兄弟、日本語を話せない家族など、多岐にわたっていることがわかった。「ケアラー本人が自分自身の人生を生きられるよう、支援を進めるべき」と斎藤氏は語る。

ケアマネにケアラー支援の視点を

 子ども・若者ケアラーの早期発見の場として、学校は重要だ。しかし、ケアラー自身がスクールソーシャルワーカーへの相談をためらったり、学校側からは家庭の中が見えにくいなどの課題もある。

 「家庭の実情を把握するために、ケアマネジャーやヘルパーの役割は大きい」と斎藤氏。現状、ケアプランの主体は要介護者だ。家族は介護力とみなされ、ケアラー自身が仕事で多忙だったり、メンタルの問題を抱えているなどのケースが見過ごされることもある。「ケアラーへも配慮したケアプランの作成や、声掛けなどもお願いしたい」と斎藤氏は話す。

 特に18歳以上の若者ケアラーは、大人と同等に扱われるが、これからの生き方を考える大切な時期であり、負担は大きい。ケアラー本人が「家族思いのいい子」と声をかけられると、ケアを担う現状に対し「いやだ」「しんどい」と言えなくなる。「大変だよね」など、寄り添いの言葉が必要だと斎藤氏は言う。ケアマネジャー自身がケアラー支援の視点を持つために、意識改革が必要だと訴える。

家族丸ごと支援を

 介護保険制度では、調理・洗濯などの生活援助サービスは、要介護者本人以外へ提供することはできない。家族が家事をできることを前提とした制度であり、ケアラーの支援には限界がある。要介護者への支援は、ケアラーにとって一時的なレスパイトとなるが、根本的な解決にはならないのが現状だ。

 ケアラーを支えていく上で、介護保険制度は間接的な支援に留まる。要介護者が必要な支援サービスを有効に活用した上で、ケアラーが家族のケアを続けなければならない状況から抜け出せる見通しを立てていくことが重要だ。そのために、「家族全体を包括した『家族丸ごと支援』の考え方が必要」と斎藤氏は語る。

(シルバー産業新聞2022年7月10日号)

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