ST常駐 摂食嚥下、言語療法に特化 /
礎(埼玉県越谷市、大塚洋幸社長)が運営するデイサービスセンター「言葉の森」では言語聴覚士が常駐し、言語聴覚療法領域(発声や言語、嚥下)などに特化したトレーニングを提供している。食形態の改善や、構音障害により就職が困難だった人をリハビリし同事業所で採用するなど、在宅生活を支えている。
管理者の笠原大希さんは「言語聴覚領域の機能低下は在宅生活が困難になる要因の1つ。しかし、中重度者へ訪問できるSTや管理栄養士などの専門職は少なく、施設入所となることが多かった。嚥下機能や発声などに困難がある人の在宅生活を支える拠点として当事業所を開設した」と話す。
血液データ分析や、舌トレで食形態改善
機能維持・向上のために積極的なリハビリテーションに取組んでいても、必要なエネルギー量を摂取していなかったり、低栄養状態では期待される筋肉量の改善にも繋がらない。
「特に病院からの退院後は安全のため食形態を低くして食事提供されたため、必要な食事量が摂取できずに低栄養となっていることが多い」と笠原さん。
また、加齢と共に筋力が衰えることは知られているが、同時に舌の筋力も衰えてムセの原因や食塊形成が困難になる事を知らない利用者も多いと指摘する。
同事業所では利用開始時に栄養アセスメントを実施。血液検査のデータから▽アルブミン▽ヘモグロビン▽カルシウム――の数値を確認し、低栄養や貧血の状態を正確に把握。利用者の身体機能と合わせて個別のトレーニング計画を作成する。
昼食時にはST、看護師、笠原さんでミールラウンドを行い、食事姿勢や机の高さ、食塊形成ができているか、ムセの有無を確認する。
同事業所を週2回利用しているAさん(要介護3)は生活習慣病の他、脳出血により右マヒの症状があった。
栄養アセスメントを行った結果、食形態が合っておらず低栄養の傾向もあった。
そこで、舌を動かしたり発声トレーニング、口腔機能向上に向けた運動等を行った結果、おかゆから米飯、極きざみから常食へと食形態が向上。さらに、食事量が増加したことで栄養状態も改善し、利用から半年で要介護1まで改善した。
同事業所では栄養サポート実施により利用者の約7割が食形態や食事量の改善に繋がっている。
発話改善により再就職へ
Bさん(要介護度2、56歳)は構音障害による発話困難があり、9月から同事業所に通い始めた。Bさんは現場監督として働いていたが、障害により退職。その後も働き先を探して何度も面接を受けていたが、発話障害を理由に採用に繋がらなかった。また、脳出血による左マヒの症状もあったため、肉体労働の仕事での就労も困難だった。
発話の了解度を測る「発話明瞭度」に沿ってBさんを評価すると、「話すことが時々わかるときがある程度(3.5)」で、ほとんどの発話が不明瞭で聴き取りにくいことが分かった。
言葉の理解には問題がない事から、主に唇や舌など口腔内のトレーニングを中心に個別プランを作成。約2カ月継続したことで、口がしっかり動くようになりBさんの発話明瞭度は「時々わからない時がある程度(2)」へ改善した。
さらに、コミュニケーションをとるのに十分な発話レベルになったことから、通所サービスの利用を1月に終了予定。同月からは同事業所のリハビリ補助スタッフとしての採用が決まった。
笠原さんは「利用者の機能維持・改善はもちろん社会参加にも繋げられたとても良い経験。今後は私たちの持つ嚥下・発話の専門知識を他の事業所にも広げ、地域全体の質向上にも取組んでいきたい」と語る。