インフラ新システム導入で地域の避難所に 省エネ・省コスト・BCP対応も
社会福祉法人せとうち(広島県福山市、蔵本直理事長)が運営する特別養護老人ホーム「プレジール箕島」は、エネルギー利用の改善に向け、2018年よりインフラ設備の一環として、LPガスとコージェネレーションを組み合わせたシステムを導入した。
着目したのは、LPガスを燃料とした、コージェネレーションシステム。発電の際に生じる熱を回収し、蒸気や温水として、冷暖房・給湯などに利用できる仕組みとなっている。燃料が本来持つエネルギーの約75~80%を活用できるとされており、エネルギー効率に優れることも特徴。熱を有効に活用することで、高効率かつ低コストに発電することが可能となる。
導入の決め手について蔵本理事長は、「コージェネの常用発電によって電気代を抑えつつ、非常時や長期停電時にも事業継続が可能になること、さらに従前の配管設備がそのまま使えることがポイントだった。補助金が活用できることも大きな理由だった」と語る。
約1年の準備期間中にトラブルはなく、システムは順調に稼働をはじめた。
期限迫るBCP策定にも有益
今回プレジール箕島が設置したのは、停電対応型ガスエンジン・マイクロコージェネ3基(合計75kW)、ガス空調(GHP)8基(合計200馬力)や、災害対応型バルク貯槽3基など。
燃料となるLPガスは、圧力を加えることで容易に液化する特性を持つため、容器を用いて個別に供給が可能な「分散型エネルギー」。災害時には1戸単位で点検・復旧ができるので、他エネルギーと比べていち早く完全復旧が可能。さらに、供給を地域のLPガス事業者から受けることで、非常時でも継続して自立的な発電・熱利用を行うことができる。
また、LPガスを貯蓄する災害対応型バルク貯槽には、燃料の取り出し用吐出口が備えられている。必要に応じてコンロ等に接続するなど多目的に使用することも可能なため、いわば停電とは無縁の自立・分散型エネルギーといえる。
「近年、広島市や倉敷市などで水害が相次いだが、当施設ではもしものときにも電力の心配はしなくて済むようになった」と蔵本理事長。館内の電力供給や湯量が安定していることで、職員からも好評を得ているという。
また、導入時には、地域の防災拠点として機能させることも考慮した。21年には災害対策基本法が改正され、福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定が行われたが、同施設では自ら災害に強くなると同時に、地域の防災力向上も目指した。
本館6階、別館3階建ての建物内では、特養だけでなく、ショートステイやデイサービス、地域包括支援センターなど7つのサービスを提供しており、まさに市の高齢者福祉の中核的存在。
その公共性を重く見て、コージェネの導入を契機に福山市と「災害協定」を結んだ。今後は地元消防団や自治会と連携して、地域の避難者の受け入れも想定した防災訓練等を実施する計画となっている。
ランニングコストは300万円減
蔵本理事長は、「かつてフル稼働時はピーク電力が200kWだったが、79kWにまで下がった」と、安堵した表情で話す。
同施設にシステムを導入したアストモスエネルギー(東京都千代田区、小笠原剛社長)の村上一輝さんは、「非常用発電機とは異なり、普段使いのなかで省エネ効果を感じつつ停電対応が可能な優れもの」と語った。
災害対応の危機管理や事業継続面に優れた機能を持つ同システムは、この間、急速に全国の自治体や消防、病院、学校、団体、企業等で導入が進んでいる。
☆補助金情報
同補助金は大規模な災害等が発生した際に、系統電力、都市ガス、水道の供給が途絶した場合でも、避難困難者が多数生じる医療施設、福祉施設、公的避難所等のライフラインの機能を維持するため、LP ガスの災害バルク導入を補助するもの。
特徴として、災害用バルクそのものに加え、同時に設置する消費設備( コージェネやGHP 等) にも補助金が出ることが挙げられる。補助率は1/2 ~ 2/3(ただし導入設備により上限金額あり)。
今年度は来年2月までの設置が必要となるが、2014年より毎年予算化がされていることから、村上さんは「次年度以降の交付も見据え検討いただきたい」と話す。